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中村桂子のちょっと一言

館長の中村桂子が、その時思うことを書き込むページです。月二回のペースで、1998年5月から更新を続けています。

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大きな人はどこへ

2015年1月15日

「STAP細胞はなかった」ということで事件は一応終りました。細胞のことはまだわからないことだらけですのでこれからもさまざまな研究が行なわれ、思いがけない発見もあることでしょう。しかし、今回のドタバタ騒ぎは終りました。とんでもないことでしたが、とにかく終ったのにはホッとしました。

とは言え、関係するリーダーたちに、この問題の本質を見据えて、本来科学とは何か、科学者とはどういう存在なのかを考えるきっかけにしようとする様子が見えて来ないのがとても気になります。この問題を徹底的に追って報道した毎日新聞の須田桃子記者が、その間抱いていた科学者像として「あくなき好奇心と探究心、実験や観測データに対する謙虚さ、そして誠実さと科学者としての良心」をあげています。最低限の要素として。取材を通して、これは青臭いと言われてもしかたがないと思う一方、誠実さを期待されない科学者など寂し過ぎると思ったとも書いています(「捏造の科学者」(文藝春秋))。まったくその通りです。

若い研究者が、期待される誠実さを持って活動できる場をつくるのがリーダーの役割です。今年のテーマは「寛容」だとしましたが、どうしたら科学者社会がよくなるか、そして科学者が社会の中で価値ある存在になれるかを考えるという「公共」の精神を持つことも、寛容につながる大事な気持だと思うのです。そういう大きさを感じさせる研究者はどこへ行ってしまったのでしょう。昔を懐かしむのはあまり好きではありませんが、私の先生たちは皆んなそういう方だったなあと思い出しています。

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