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中村桂子のちょっと一言

館長の中村桂子が、その時思うことを書き込むページです。月二回のペースで、1998年5月から更新を続けています。

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今年も終りです ———— 「赤毛のアン」と「ふしぎの国のアリス」

2014年12月15日

今年も終りです。過ぎたことは忘れてしまう性質なのですが、今年あったことの中からあえて探し出すと、「赤毛のアン」と「ふしぎの国のアリス」の読み直しがあります(そういえば、昨年は宮沢賢治を読み直して「生命誌版セロ弾きのゴーシュ」を作ったのでした)。両方共、たまたま求められてのこと。アンは、朝の連続ドラマの影響で書評座談会をすることになりました。「アリス」は、発刊150年ということで、「21世紀に読むアリス」というテーマを与えられました。

両方共、最初に読んだのがいつだったかをはっきり記憶していません。私の場合、小学校の時は「疎開児童」で、自由に本が読める状況ではありませんでした。東京の家にあった本は、全部空襲で家と共に焼けてしまいましたし。ですから、中学から高校の頃に読んだのだと思います。アンはあまりにもお喋りで好きになれなかったという程度のうろおぼえでしたし、アリスも、涙の池で溺れるところとハートの女王が浮んでくる程度、とにかく忘れっぽいのです。

改めて読んでみて、「赤毛のアン」は、アンを育ててくれるマリラやマシューを中心にしたカナダの地方のコミュニティの話であることに気づきました。アンの成長物語とされていますけれど、むしろさまざまな立場の人の関係や自然とのつき合いが描かれているところが面白いと思います。学ぶことの多い地域社会です。アリスの方は、生命誌の見る生きものの世界はまさに「ふしぎの国」としか言えないと実感しました。「ふしぎの国」でどう生きるかが生命誌のテーマだと。年末・年始のお休みに昔読んだ物語りを読み直してごらんになると新発見があると思います。

この一年、この欄を読んでいただいてありがとうございます。できましたらちょっと何か書き込んで下さるともっと嬉しいのですが。来年こそよろしくお願いいたします。よいお年をお迎え下さい。

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