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中村桂子のちょっと一言

館長の中村桂子が、その時思うことを書き込むページです。月二回のペースで、1998年5月から更新を続けています。

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息絶え絶えの科学を救い出して

2014年4月1日

20年前に植えた桜が立派に育ち、今年も近隣の方たちに楽しんでいただく通り抜けの季節になりました。20周年の催しを終えて、桜を眺めながら気持よく次を考えようと思っている中で、やはり「STAP細胞問題」が気にかかります。

20年前にBRHを始めたこと、2011年の東日本大震災を思いながら昨年「科学者が人間であること」(岩波新書)を著したこと。共に生命科学研究と研究者のありように、今回のような問題が起きる気配を感じたからです。自分自身も生きものであるという感覚を大切にしながら、"生きている"というなんとも魅力的な現象について考えようという姿勢なしに、研究を進めても意味がないと思うのですが、現実の科学の世界はそこからどんどん離れています。大型の予算を獲得し、競争に勝つこと、経済効果のある成果を出すことが科学者としての評価につながるのです。もちろん、難病の治療や薬の開発は重要ですが、それも"生きているとはどういうことか"という大きな問いの中に置いて考える必要があります。それには考える時間が必要です。急ぎ過ぎはよくありません。

BRHは小さな組織ですが、このような知のありようの具体化を求めてきました。基本を考え、研究者、とくに若い研究者が生き生きと、のびのびと考え、研究し、よい成果を出す場を作ることが大事です。個人の問題をなおざりにしてよいとは思いませんが、これは科学という、更には学問という文化が息絶え絶えになっていることを示しているのだと受け止め、根本を考え直すきっかけにすることが大事です。

これは、実は科学に限らず、現代社会のさまざまな場面(政治、経済など)で起きているのではないでしょうか。

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