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中村桂子のちょっと一言

館長の中村桂子が、その時思うことを書き込むページです。月二回のペースで、1998年5月から更新を続けています。

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【憲法について — 政治の論理に翻弄されない】

2014年2月3日

昨日の日曜日、夕食後の時間がポッカリ空きました。次の日までにどうしてもやらなければならない仕事も家事もないという滅多にないありがたい状況になったのです。昼間はオープンガーデンで庭仕事をしましたから、本でも読もうかなと思った時、たまたま眼の前にあったのが「比較の中の改憲論 — 日本国憲法の位置」辻村みよ子(岩波新書)でした。法律は人間が決めるものですから、変えてはいけないものではありません。けれども今9条を変える必要があるとは思えませんし、ましてやそれを変えやすくするために96条を改正するという動きはおかしいと思っています。でも法律のことはよくわかりませんし、また法律の勉強をする気も起きない・・・とはいえたまたまここにこの本があるのも何かの縁と思って読んでみました。すると、ナルホド、ナルホドということばかりで、憲法改正の動きにただの感情でなく論理で対応できそうという気になってきました(すぐにその気になる能天気はいつものことです)。

まず、各国の改憲手続きを比較すると、あたりまえのことですが、安易に変えられるようになっている国はどこにもありません。国によって制度が違いますから難易度の比較は困難とあるのはその通りでしょう。ただ、アメリカの政治学者が1994年に五大陸の32ヶ国を選んで比較した研究があるとのことで、特定の採点法によりアメリカ(5.1点)、スイス・ベネズエラ(4.75点)、オーストラリア(4.65点)が難しい国、日本は9位(3.1点)、ドイツが23位(1.6点)とあります。私にこの比較の評価はできませんけれど、日本が特に変えにくい国ではないことは確かでしょう。国会での熟議によって改憲賛成が2/3に達しなければならないのは決して厳しすぎるものではなく、過半数にしようという考え方は説得力に欠けると著者は書いています。その通りです。

もう一つ。私たちは日本の憲法を「平和憲法」としてとても特別のもののように捉えがちですが、他の国も平和を考えており、世界は平和を大切にしているということも教えられました。フランス、ドイツ、大韓民国、キューバ、バーレーン、モザンビークは「侵略、征服戦争放棄を明示する憲法」を持っているとのことです。イタリア、アゼルバイジャン、フィリピン、ハンガリーなどは「国際紛争解決手段としての戦争を放棄する憲法」だそうです。その他、核兵器禁止、軍隊の不保持の憲法をもつ国もいくつもあります。

日本は「戦争放棄・戦力不保持・平和的生存権」を明示しており、きっぱりして気持よいですね。世界は今、平和へ向けての模索をしているのだとありましたが、私も実感します。子どもたちの上に爆弾を落とすなどというとんでもないことのないよう、日本が70年近い実績を基本に発言し、行動することこそ今求められています。それなのに変えるなんてもったいない。タイトルの言葉は、辻村さんの本の帯にありました。たとえNHKの会長が何とおっしゃろうと、翻弄されずに自分で考えるのが次の世代に対しての責任です。私たちが試されていると思います。

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