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中村桂子のちょっと一言

館長の中村桂子が、その時思うことを書き込むページです。月二回のペースで、1998年5月から更新を続けています。

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【安全神話も否定神話もおかしいのではないでしょうか】

2012年11月15日

中村桂子

今、構内の桜並木の紅葉がきれいです。桜は花もよいけれど紅葉がよいとこの頃思っています。

ところで、以前から気になっていながら難しいので書かずにきたことを今日はとりあげようと思います。

東大医科研の坪倉正治さんが、東日本大震災後放射線内部被曝検査の必要性を感じ、南相馬市立総合病院でその実施に努めておられます。坪倉さんからの「内部被曝通信」*は読みでがあります。10月の通信では、2012年4月1日〜7月31日の間に受診した8,200人(内15歳以下は4,979人)についての結果が報告されています。検出限界未満が8,127名(99.11%)、検出したのは73名(0.89%)です。検出した方は高齢の男性が多いのが特徴です。ほとんどの人が検出しないということは、日常生活での慢性被曝が抑えられているということで、スーパーマーケットに流通している食べ物を食べていればこの値だということです。値が極端に高い人は、自分で栽培したシイタケや山で獲ったイノシシを食べているとわかりました。

この報告は昨年から続いているのですが、内部被曝はずっと低い状態で、食べ物に関しての安全確保の対応はできていることがわかります。本当によかったと、この報告を見るたびに思っているのですが、世の中一般にはなんとなく“あぶない”という雰囲気が流れておりこのような努力が評価されていません。客観的な数字で見ていないのです。今日送っていただいた本(福島の美術館で何が起こっていたのか 黒川創編 SURE)にもこんな話がありました。小学生のお母さんである美術館の学芸員の話です。「去年の9月〜12月、子どもにガラスバッジをつけて放射線量を測ったところかなり低く、一年被曝しても1ミリにならない量でした。一人の子どもは不検出。内部被曝の検査でも不検出でした。このような積み上げの中で平常を取り戻しつつあるのかなと思います。」ところがネットの情報などで子どもでの「動物実験だ」と言われ、つらい思いをしているとおっしゃるのです。福島に住んでいるのは、何も知らないバカな母親だからではなく、情報を得てそれで判断しているのにとも。この方は、自分も原子力発電を稼動するべきでないと思っているけれど、それを福島には住めないというところに結びつけることが現実に住んでいる人をどれだけ苦しめているか、想像力を持って欲しいと語っています。数日前の東京新聞の投書欄にも、東北の物産展で買ったものを食べていたら、そんなもの食べたら危険だと言われて悲しかったという体験談が載っていました。

測定値が出ているのに、それに対応した判断と行動を否定するのはなぜでしょう。原子力安全神話があったと言われますが、これではそれをひっくり返した原子力否定神話になってしまいます。専門家にも危険とおっしゃる方があるので混乱します。日を追って出される相馬からのデータで判断してのことであり、別のデータがあるのならそれを知りたいのですが、出てきません。これから原発を動かすことに賛成か反対かということと、現実に基づく判断とは別です。原発に関わることは何でも否定的に見るのはおかしいと思うのですが。とても大事なことなので、お読み下さっている方のお考えを伺いたいと思います。書き込んで下さい。

*私はメールで送られてくるものを読んでいますが、『朝日新聞の医療サイト「アピタル」』に掲載されています。

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