ちょっと一言

館長の中村桂子が、その時思うことを書き込むページです。月二回のペースで、1998年5月から更新を続けています。

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【“取り返しがつく”ということ】

2012年9月3日

中村桂子

先回予告したテーマです。季刊生命誌(2012年73号)に登場していただいた建築家の隈研吾さんが岩波書店の「図書」762号の巻頭に「取り返しがつく世界」というエッセイを書いていらっしゃいます。「僕はいまだに原稿を手書きで書く」という文で始まるエッセイには、コンピュータの原稿は確定感があるのでそれを避けているとあります。事務所の方に打ってもらい、それに手を入れて真赤にするという作業をくり返すのだそうです。

実は私もまったく同じです。つき合わされる秘書の多田さんは迷惑千万に違いありませんけれど。手書きのもう一つのよさは、原稿の字数とのかね合いを手が知っているということです。書きたいこと、書かなければいけないことをどんな風に入れるかが書いているうちに自然にきまってきます。機械だとそれができません。これは、とてもとても個人的な事情かもしれませんけれど。

ところで隈さんのエッセイは、それは「取り返しがつかない」という状態が嫌いだからであり、建築でも設計でも「取り返しがつかない」を避けるという本業の話になります。そして、御自身の建築への向き合い方の対極が「コンクリート打放し」だとあります。もちろん、「これは僕にはなじまない」とだけ書いておられるのですが、でき上がったものに接したり、暮らしたりする側から見ると、日本の風土には合わないと言ってよいように思うのです。日本はやはり木が合います。と思っていましたら、先日世田谷区(私は区民です)で木造の5階建てマンションが着工されたと聞きました。以前から木造の高層ビルは建てられると専門家から聞いており、できるだけ多くの建物が木造になって欲しいと願っていましたのでバンバンザイです。まだ模型しか見ていません。実際に建った時の風景がどうなるのか・・・楽しみです。

2000年に建築基準法が改正され、安全性を満たせば木造建築の高さ規制がなくなったとのことです。木造建築はCO2を固定し、都市を森にします。日本の山林を守ることにもなります。

そんなことより、木造には日本の風土に合う美しさがあります。木の格子のビルの並ぶ街が生まれるのが楽しみです。京都の街ならベンガラ格子でしょうか。

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