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中村桂子のちょっと一言

館長の中村桂子が、その時思うことを書き込むページです。月二回のペースで、1998年5月から更新を続けています。

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偶然と必然の微妙な組合せ

2012.5.1

中村桂子館長
 先回「手」の特集をした「銀花」をたまたま手になさったと書いて下さったコメントに人間社会でも自然でも偶然ってあるものですねと書きました。それを書き終えてから、親族の集まりのために江ノ島に出かけました。ローカルな話で申し訳ないのですが、成城学園前駅から小田急で一時間足らず。たまたま同じ電車に老夫婦が乗られました(こちらもそうなのですが少し年上に見えましたので)。奥様は杖をついていらして、どうも御主人は杖を忘れたらしい様子。口争いがなんとも微笑ましく印象に残ったのです。三時間ほどの会合を終え、帰りの電車に乗って発車を待っていたら、そこへ朝の御夫婦が乗って来られるではありませんか。またちょっともめながら。お話をしたわけではありませんし、往復の電車が一緒だったというだけのこと(もちろんお相手はそんなこと気づいていません)。でも、こんなことってあるんだと偶然を楽しみました。
 近く全国で金環蝕が見られるということで本屋さんにもたくさんの本や雑誌が並んでいますが、日蝕のたびに地球と月と太陽の関係のふしぎさを思います。月がちょうど太陽を隠すようになっているのですから。それぞれの大きさと距離は独自にきまっているのに、それがたまたまこの関係になっている。月が大き過ぎても小さ過ぎても金環蝕という微妙な現象は起きないでしょう。しかも地球と月の間の距離は変化しているので、今、人類が地球に存在し、観測している時にこの関係になっている・・・そう思うとこの自然の偶然にふしぎを感じてしまいます。
 科学は必然の因果関係を探りますが、すべて必然だったらつまりません。そうかと言ってすべて偶然では物事の理解のしようがありません。生きものは調べれば調べるほど偶然と必然の組み合わせが微妙と気づかされます。それゆえにこんなに魅力的なのでしょう。

 【中村桂子】


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