中村桂子のちょっと一言
中村桂子のちょっと一言
館長の中村桂子が、その時思うことを書き込むページです。月二回のペースで、1998年5月から更新を続けています。
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2011.12.1 

【落葉をどうしましょう】
 
中村桂子館長
 落葉の季節になりました。落葉掃きをしていると一年中葉は落ちてきて、樹は生きてるなあと実感しますけれど、やはりこの季節の落葉の量は特別です。これで落葉溜めをいっぱいにして腐葉土を作ろう。庭いじりの好きな人たちの張り切る時期でもあります。近年都会では落葉が嫌だから樹を伐って欲しいという人がふえていて、私の近所でも時々そんなもめ事が起きています。でも古くから住んでいる人が多い地域なので、皆さんそんなことには負けません。開発ですばらしい樹が伐られるのを泣く泣く見ている身としては、そんなことで大事な樹を伐ってなるものかという気持です。
 ところで今年は、近所にある武蔵野の面影を残した土地を守っているグループが困っています。落葉を溜めてはいけない、すべてビニールの袋に入れなさいという一律の指令が来たからです。それを集めて燃すというのです。理由は放射能です。高い値が出たわけではないので、むしろ敷地内で溜めておいた方がよいのではないか、税金を使って燃すのが正解とは思えないという戸惑いとそこで毎年育っているカブトムシが今落葉を入れてやらないと可哀想という悩みがあるのです。
 指令は、小さなお子さんのいるお母様たちの気持への対処のようで、もちろん子どもへの配慮は大事です。でも落葉はすべてダメと言われると困る人が出てくるわけです。このように、さまざまな立場の人々が生活の場で悩むことが次々と出てきているのが現状です。解決に向けては科学的対応が必要で、それにはまず測定でしょう。でも測れば科学というわけではありません。むしろそこから先が難しい。答がわかっているわけではないので、判断には知識だけでなく知恵が必要です。このバランス感覚が難しい。実は科学は“絶対はない”という世界です。現在わかっていることはこういうこと、その中で最善と思われる選択をしましょうというのが科学的な考え方であり、絶対これが正しいとか絶対誤りとか言うものではありません。これまで科学がちょっと神様みたいな顔をしてきたところもあるのがいけなかったので、科学についての認識の共有が必要になっています。そして、全体を見たうえで、自分で考え選択をするという知恵が必要です。前にも紹介した宮沢賢治の言う「ほんたふのかしこさ」でしょう。判断したうえで、土に返せる落葉はできるだけ返せるといいと思います。とても小さな例ですが、本当の知識と知恵の大切さと難しさを改めて思っています。

 【中村桂子】


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