中村桂子のちょっと一言
中村桂子のちょっと一言
館長の中村桂子が、その時思うことを書き込むページです。月二回のペースで、1998年5月から更新を続けています。
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2010.12.15 

【大切だけど大変】
 
中村桂子館長
 前にも書きました(2008年)が、小学校六年生の国語の教科書に「生きものはつながりの中に」という文を書いています。犬と犬型ロボットを比べながら、私たち生きものには環境とのつながり、過去や未来という時間のつながり、そして一人一人の生まれてから死ぬまでの私としてのつながりがあるということを伝えるものです。それを読んだ六年生から毎年たくさんの手紙が届きます。かなり難しいことのはずなのに、六年生が自分のこととしてみごとに受けとめてくれていることがわかり、楽しみです(数百通に返事を書くのは大変ですけれど)。
 ところで今年、これまでにはなかった内容の手紙があり、12年を生きてきた存在としての六年生を感じ、驚きました。書いてくれた生徒さんにお断りなしですが、考えさせられましたので、一部だけ、その内容を伝えたいと思います。「この世界で生きていることがとても苦しくなって逃げようとしたことがありました。でも心の中では死にたくなかったので、心に残る話を探していました。『生きものはつながりの中に』を読んで、「つながり」という言葉に感動し、ふだん何げなく思っているけれど実はとても大切なことだと思いました。そして言葉で人を助けることができるのだと思いました。」あまりにも思いがけないことで、考えこみました。六年生に向けて書いている時、こういう姿を思い浮べてはいませんでした。真っ白なところに新しいことを流しこもうという感じだったと思います。この年齢になれば、もう一人一人に特有のものがあるのはあたりまえのことなのに、それを考えずにいました。こんな風に読んでもらえるなどとは思いもしませんでした。一言で子どもとまとめていてはいけないのですね。「言葉で人を助けることができる」とありますが、私はこの六年生の言葉からとてもたくさんのことを学びました。しばらく前に、「教育」は大切と気づいたと書きましたが、この体験で、大切だけど大変なことだと気づきました。

 【中村桂子】


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