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中村桂子のちょっと一言

館長の中村桂子が、その時思うことを書き込むページです。月二回のペースで、1998年5月から更新を続けています。

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【性善説の方が安上がり】

2010.5.31 

中村桂子館長
 今日も研究館の若いメンバーに、「よいところを見るようにしましょう」と勧めたところです。人間誰だってよいところ悪いところがあるのはあたりまえ。他の人についても自分についても、悪いところの方が気になるのもあたりまえです。そこで、懸命に自分のよいところを探してみると・・・私の場合、「人のよいところを見る」ではないかと思います。面倒なことが好きではないので、こうした方が楽だからなのだろうなと思っています。悪いところを気にすると、間柄をなんとかしなければならなくなって気持にも負担になりますし、それを考える時間も必要です。それより、よいところを見て気持よくしていた方がいい。甘いねえ、そんなことで世の中すまないよと言われるのはわかっていますし、これで暮らせてきたのは幸せと思います。
 でも、世の中、「性善説」で組み立てた方がうまく動くし、おかしな言い方をするなら安上がりのはずです。最近は研究の世界でも、人は悪いことをするものという形でシステムを組むものですから、悪いことを避けるためのきまりが多くなり、分厚い書類が必要になってきました。でも “悪い” を前提にして制度を組むと、より巧みに悪いことをする人が生れ、しかも始めから悪いことをするつもりのない人に余計な負担がかかることになり、安上がりでなくなります。金銭的にもそうですが、より大事なのは精神的負担と時間的負担です。なんだか今どこへ行っても皆んな忙しくて少々疲れ気味のような気がするのです。ギスギスした空気を感じます。ここで最初に戻るのですが、そうなるとお互いに悪いところが見えてしまってそこに時間をとられる・・・これって負のスパイラルですよね。負のスパイラルほど恐いものはありません。どんどん落ち込みます。日本の社会をよくするには、まずお互いよいところを見るという小さなことをするのがよいのではないかしら・・・何事も神は細部に宿るのです。



 【中村桂子】


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