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中村桂子のちょっと一言

館長の中村桂子が、その時思うことを書き込むページです。月二回のペースで、1998年5月から更新を続けています。

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【新幹線の時間】

2009.5.1 

中村桂子館長
 毎週一回、新幹線での往復も16年目に入りました。週二回往復すると体が続かないという忠告を忠実に守り、しかもまったく動かなかった週はほとんどありませんでしたから750往復ほどしたことになるわけです。列車の中は、自由に使える時間です。以前は、飲物など持たなかったのですが、最近はミルクティー。どういうわけか、水やお茶では物足りなくて、ちょっと甘味の入ったものが欲しいのです。細かいところで節制をして、甘味を控える努力をするのがよいとはわかっていても、"このくらいどうということはないでしょう" と自分で自分に言い訳をしながら飲んでいます。
 席の前にボトルを置いたら、さてとなるのですが、最近はもう一つやることがあります。i-podで何を聴くかをきめるのです。以前から、音楽を聴きたいといろいろな道具を試みてきたのですが、あまり定着しませんでした。ポータブルのCDプレーヤーなど、これはいいぞと張り切ったのですけれど、やはり新幹線の振動はかなりのもので、うまくいきませんでした(因みに、これだけ乗っていると、走る場所と揺れとの関係がわかります。一番揺れるのは、掛川のあたりかな、直線でスピードを出しているのでしょう)。そこで数年前からi-podにしたら、これはなかなか好調。毎回楽しんでいるうちに、新幹線の揺れと合う曲、合わない曲があることもわかってきました。今のところ、最もよく合うのがベートーヴェンの七重奏曲変ホ長調。ウィリー・ボスコフスキー率いるウィーンフィルの仲間によるヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、コントラバス、クラリネット、ホルン、ファゴットの七重奏です。家で聴くのと違って、体の揺れと同調する独特の心地よさを楽しんでいます。
 家人が入れてくれるのですが、先日入っていたのがJet Stream(FM東京の夜12時に始まる長寿番組。東京以外の方はご存じないでしょうか)。いわゆるイージー・リスニングで気分は休まりますが、「ミスターロンリー」のメロディーに乗せた城達也の "遠い地平線が消えて深々とした夜の闇に心を休める時、はるか雲海の上に音もなく流れ去る気流は・・・" というナレーションは夜以外の何物でもありません。従って往路は×、復路専用です。それらを聞きながら原稿に手を入れたり勉強したり。私の生活の中でのかなり大事な時間になっています。今年は、前に書きましたように「生命誌」についてもう一度しっかり考える年にしたいと思っていますので、新幹線の時間がどう生かせるか。また新しいピッタリの曲に出会うのを楽しみに、往復しようと思います。時々思いがけない方に車中でお眼にかかることもありますし。

 【中村桂子】


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