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中村桂子のちょっと一言

館長の中村桂子が、その時思うことを書き込むページです。月二回のペースで、1998年5月から更新を続けています。

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【また意味あるスピーチ;今回も少し堅くなりますが】

2009.4.15 

中村桂子館長
 庭の池でオタマジャクシが生れました。土曜日には大学のクラス会がありました。・・・それらにまつわる身辺雑事を書くつもりでいたのですが、またまたすばらしいスピーチがあり、どうしてもそれを取り上げたくなりました。というわけで、また堅い話になることをお許し下さい。
 北朝鮮が「人工衛星」と称したミサイルを打ち上げたということで、4月6日の朝刊の一面トップはどれもその記事でした。テレビニュースで北朝鮮のアナウンサーが、地上へ向けて「将軍を讃える歌」を送っていると言っていましたので、歌を歌いながら飛んでいる "ミサイル" を想像するとなんだかおかしくて・・・。不謹慎といわれそうですが、そもそもこのミサイル騒動があまりピンとこないのです。イラクの大量破壊兵器、イランの核開発など、どれも決してよいことではありませんし、北朝鮮にはそんなことより国民のためにやることがあるでしょうと言いたくなりますが。でも、なぜ、核兵器を大量に持っている国が、他の国に兵器を持ってはいけないと言えるのか、私の単純な理くつではどうしてもわからず、いつもどこか割り切れないのです。子どもたちに説明できないなと思って。
 ところで、同じ4月6日の一面に、「オバマ大統領、核廃絶へ向けての演説をプラハで」という記事がありましたね。私の気持ちとしては断然こちらがトップ記事です。早速、インターネットで全文を探しダウンロードしました。
 なぜプラハか。ちょうど20年前の1989年に、いわゆる「ビロード革命」と呼ばれる民主化革命があり、市民が自由と人権を獲得した場だからです。大統領は、この革命が小国でも世界を変える役割ができること、若者が古くからの衝突を乗り越える力を持っていること、道義的なリーダーシップが武器より強いことを示したと分析し、だからここで話すのだと言っています。そして "Ordinary people believed that divisions could be bridged, even when their leaders did not. They believed that walls could come down; that peace could prevail." とも。ordinary people の力は大切です。今、私たちもそれを信じなければいけない時だと思います。
 そして2万人のプラハ市民の前で語りました。
"So today, I state clearly and with conviction America's commitment to seek the peace and security of a world without nuclear weapons. (Applause.) I'm not naive. This goal will not be reached quickly - - perhaps not in my lifetime. It will take patience and persistence. But now we, too, must ignore the voices who tell us that the world cannot change. We have to insist, 'Yes, we can.' (Applause.)"
 就任後初めての "Yes, we can." がここで出るとは。その前には、「唯一、核を使用した保有国として道義的責任がある」という言葉もあります。何度読んでもグッと来ます。アメリカの大統領からこの言葉を聞きたいと思いながら、そんな青臭いことを言ってもしかたがないと大人ぶって言う人たちにいつもたしなめられる・・・長い間そんな状態でした。最近のリーダーは「・・・したいと思うところでございます。」などと言って「・・・します。」と言いません。それに比べて、このスピーチのなんと歯切れのよいことか。核軍縮、核不拡散体制の強化、核テロ防止。まず、アメリカの議会がどう対応するかという課題があるわけですが、包括的核実験禁止条約(CTBT)の批准、核兵器原料の生産停止のための新条約交渉と方向は明確です。暗い話の多い中、明るい気持になりました。人々を明るい気持にすることができる能力。これがリーダーには不可欠な資質ですね。

 【中村桂子】


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