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中村桂子のちょっと一言

館長の中村桂子が、その時思うことを書き込むページです。月二回のペースで、1998年5月から更新を続けています。

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【小さな町のすてきな先生たち】

2008.9.1 

中村桂子館長
 セミについてのご報告をいくつかいただきました。ありがとうございます。セミは、前年の気候、冬以降の天候で増減したり、出てくる時期が違ったりするものとされています。他の虫たちもそうなのでしょうが、あの声で目立ちますから、天候と虫のことを考えるのにはよい対象ですね。今年の暑さで熱中症かなというのも一つの記録として記憶に残しましょう。すぐに地球温暖化と言ったりせずに、気候や天候の変化、そして生きものに眼を向け、日常を考えるきっかけにしたいと思います。
 地方を訪れた話のお約束をしたのでした。最近、先生方(保育園、幼稚園、小学校、中学校、高校)からの“生命誌”へのアプローチがふえています。“生きているを見つめる”ということへの関心です。関心というより、考えずにはいられない状態になっているという方が正しいのかもしれません。六年生の先生からのお手紙に、六年生になると自分がこの世に生まれてきた意味や価値を見失う子がたくさんいるとあり驚きました。六年間数字に追われて過ごし、よい結果を出せない子は、行き場がなくなり自己肯定感をなくしてくるというのです。その子にしかない良さを認めていかなければならないのになかなかそれができないと先生の悩みが書いてありました。これは、手紙を下さった先生のところだけの話ではありません。
 7月15日に六年生の教科書に書いている「生きものはつながりの中に」という文に、素直に反応して手紙をくれるのは地方の子どもたちばかり、都会ではそんな暇がないのでしょうと書きましたが、きっとそうなのだと思います。子どもが自己肯定感を失うほど数で追いつめてもよいことは出てこないと思うのですが。ゆとりの意味も、競争の意味も、多様性の意味もわからずにすべてを数にしてしまうのでは、子どもは困惑するばかりでしょう。
 そこで、地方の先生方とお話をすることで、そこには本当の教育があることを確かめています。この間は、徳島県那賀町の先生方とお話しました。3年ほど前に5つの町が合併したので徳島県の面積の1/6を占めるというこの町、その90%は森林、人口は12000人ほどというところです。数が好きな方から見ると過疎の町で、もちろん人口が少ないための問題を抱えてはいるのですが、小学校から高校まで、校長先生たちが皆明るいのが印象的でした。運動会のためにブラスバンドの練習をしているのだけれど、全校生徒が参加しないと成立しないので、小学校一年生がトランペットを吹くことになり、重くて途中でだんだん下がってくるというのです。その様子を身振り手振りで説明して下さるので子どもが眼の前にいるようでおかしくて、大笑いしました。そこでは、校長先生にとっても、子どもにとってもすてきな時間が流れているのがわかります。先生からは子どもが可愛くて仕方がないという気持がとび出していました。もちろん先生方は皆さんそういう気持を持っていらっしゃるのでしょうが、競争に追い立てられている所ではこんな場面が少なくなっているのではないでしょうか。
 伺った中学は、合併の頃に建てた新しい校舎でしたが、近くの山の杉をふんだんに使った美しい木造で、とても風格がありました。こんな校舎で、こんな先生と一緒に過ごしている子どもは幸せだなあと思いました。そして、こうして育った子が大人になってから伸びるのではないかと思いました。


 【中村桂子】


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