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中村桂子のちょっと一言

館長の中村桂子が、その時思うことを書き込むページです。月二回のペースで、1998年5月から更新を続けています。

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【子どもたちからの手紙】

2008.7.15 

中村桂子館長
 6月から7月。夏休みに入るまでの間に毎年ちょっとした仕事が入ります。実は、小学校6年生の国語の教科書(光村図書)に「生きものはつながりの中に」という文を書いており、それを読んだ子どもたちから手紙が届くのですが、それがいつもこの時期になるのです。
 「生きものはつながりの中に」。このつながりでは二つのことを話します。一つは時間的つながり。今あなたがここにいるのは両親がいてそのまた両親がいて・・・ずーっともどると38億年前の生命の起源にもどります。一方、子どもへ、孫へと未来へもつながっていきます。もう一つは空間的なつながりです。家族や友達はもちろん、地球上のあらゆる生きものとつながっていることを伝えます。生きものだけではなく、水も空気もあなたの体へ入っていく。周囲のあらゆるものがつながりの中にいるのです。チロというワンちゃんとロボットの犬との違いを示しながら時間と空間のつながりを説明していきますので、生命誌そのものを語ることになります。つまり、進化・発生・生態系、更にはその中でのあなたというかけがえのない存在について語っているわけで、実はこれは「理科」では中学校、時には高校でも話してはいけない内容です。とても難しい話とされているわけです。ところが、国語なら許されるということに気づき、それを活用して思いきり書いているという次第。嬉しいことに小学生はこの思いきっての投球をみごとに受けとめてくれます。
 子どもたちの手紙から、教科書の内容をそれぞれの日常に結びつけて考えていることがわかります。「おばあちゃんがいてくれたから私がいるんだと思うので、おばあちゃんにやさしくしたいと思います」「いじめをしちゃいけないと思いました」などと決心が書いてあるかと思うと、「生きているってすてきなことだと思います」とあったり。今年はすでに200通。短い文ですが、一人一人に返事を書くのはちょっと大変です。去年は400通ほどだったので、まだもう少し来るかなと覚悟しています。
 ところで、手紙をくれるのは、ほとんどが地方、とくに小さな学校の子どもたちなのです。クラス全部で4人という学校もありました。「5年生と6年生が一緒に勉強しているので5年生も読みました。ちょっと難しいかなと思いましたが何度も読んで考えていました」という先生のお手紙がついて、5年生も含めて4人が書いてくれた手紙も来ました。“つながり”が実感できるクラスで勉強している先生と子どもたちの姿が浮かんできます。これまで大都会の子どもたちからの手紙を受けとったことはありません。都会の子どもたちは忙しすぎるのかなと想像しています。こんなところからも「生き馬の目を抜く」ような生活をしている都会は、子どもが育っていく場として本当によいのだろうかと考えさせられます。


 【中村桂子】


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