中村桂子のちょっと一言
中村桂子のちょっと一言
館長の中村桂子が、その時思うことを書き込むページです。月二回のペースで、1998年5月から更新を続けています。
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2008.3.17 

【新田Eプロジェクトの始まり】
 
中村桂子館長
 寒い寒いと言っているうちに3月。私の起床時と京都の東山からお日さまが登る時刻が重なります。今日あたりお日さまの方が少し先になってきましたが、「枕草子」の“春は曙”を実感する時です。季節は同じように巡ってくるのですが、こちらは年を重ねていくので、それを受けとめる気持が少しづつ変っていく。こうなると「方丈記」です。何かをふと思うと、たいてい昔の人が考えていますね。最新、最先端を考えることも大事ですが、人間の基本は同じなので、昔に学びながら先を考えなければいけないと思います。
 先回の続き、新田小学校の紹介ですが、まさに、この小学生たちは「古きを学び、新しきを考える」を実践しています。「コウノトリを育む農法」を始めるところまで来ましたが、ここでちょっと戻って、なぜ農業を始めようと思ったのかという子どもたちの気持を紹介します。
 先回述べたように、洪水による床上浸水がきっかけで自然に目を向けるようになった生徒たちは、台風の後も身の回りの田んぼが豊かに実り、たくさんのお米ができるのを見て、自然の復元力のすごさを感じ、田んぼの中で暮らしていることが誇りに思えてきたと言っています。こういう感覚を持った時、生きている喜びが実感できるのだろうなと思います。それから後の彼らは、自信を持ってぐんぐん進んでいきます。こうなったらしめたもの、大人はもうやることがなくなり、応援団にまわります。水田に多様な生物が棲めるようにするために、川からの魚道を計画したのですが、専門家に頼むととても費用がかさむことがわかり、自分たちで作ることにしました。土木改良事務所へ行って作り方を教えてもらい、森林組合へ行って材料を分けてもらい…。こうやって社会とつながっていくのも、このプロジェクトを始めたからこそです。大人たちも手伝い、魚道ができた日に、コウノトリが子どもたちの田んぼに来てくれたとか。あまりにもタイミングがよすぎる…とも思いますが、運も力のうちです。これで子どもたちは更に元気になります。
 イトミミズ、ユスリカ、ミジンコ、メダカ、ナマズ、フナ、ドジョウ、ホウネンエビ、カブトエビ、ヤゴと、たくさんの生きものがいる田んぼでのお米づくりは、大変だけれど順調に進み、9月の末に稲刈りが行なわれました。その間、生態調査、生育調査といわゆる科学的なこともかなりやりました。自分で考えず、命令されたことだけをやる子が多い、子どもが科学離れしている。教育の場で必ず聞かれることですが、このプロジェクトに関わった子どもを見ている限り、次々と自分たちで考え、実行していきます。そして、「農業は命を育むことなのだ」とわかり、自分たちもたくさんのつながりの中で生かされていると感じたと言っています。仕事柄、「生命の大切さを教えるにはどうしたらいいでしょう」とよく聞かれます。人工的な環境に置き、お金を出せば何でも手に入るという生活をさせて、口だけで生命の尊さを語っても何も起きません。この子たちが特別なのではありません。皆がこうなれるのに、そうさせていないのは大人です。


 【中村桂子】


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