中村桂子のちょっと一言
館長の中村桂子が、その時思うことを書き込むページです。月二回のペースで、1998年5月から更新を続けています。
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2003.10.1 

【存在そのものが生命誌】
 
中村桂子館長
 昨日、阪田寛夫さんが新著を送って下さいました。あの有名な“サッちゃん”の作詞者です。この社会にこういう方がいて下さるのがとてもありがたいと思える方たち、幸い、少なくない数のそういう方を存じあげていることが生きる励みになっていますが、阪田さんはそういう方のお一人です。もう一人のすてきなお仲間であるまど・みちおさんと一緒に。
 子どもの頃河村光陽先生のお宅が近くにあったので、歌を教えていただいていました。“かもめの水兵さん”“赤い帽子白い帽子”などという私たちの世代が唄った童謡をたくさんお作りになった方です。学校で習う歌は戦争色が濃くなっていきましたが、自然に口ずさむのはやはり童謡。戦後も“みかんの花咲く丘”“里の秋”そしてラジオドラマの主題歌“鐘の鳴る丘”などなど、これらの歌には当時の生活が織り込まれており、歌うと思い出されます。
 時代は変わって子どもを育てる頃。歌もラジオでなくテレビから流れてくるようになっていました。NHKの「おかあさんといっしょ」という番組で歌われる歌が子どもたちの愛唱歌になり、私も自分が子どもだった頃とは一味も二味も違う、洗練された歌を楽しみました。それらの歌の詩でとくに魅力的だったのがまど・みちおさんと阪田寛夫さん。まどさんの代表作は「ぞうさん」。因みに作曲は團伊玖磨さん。お鼻が長いのねと言われたぞうさんが“そうよ母さんも長いのよ”と言うので、私はそのまま遺伝の話と受けとめていましたら、まどさんは“鼻が長くておかしいね”といじめにあったぞうさんが“母さんだって長いんだぞ”とプライド高く答えているところだとおっしゃっています。なるほど。どこか違っておかしいなといういじめに対してそれぞれでいいんだよというメッセージ。そこまで入っているとは気づきませんでした。その他は“やぎさんゆうびん”“ふしぎなポケット”“おさるがふねをかきました”などなど。くろやぎさんからのお手紙を食べてしまったしろやぎさんが“さっきの手紙の御用事なあに”と手紙を書くと、くろやぎさんがまたそれを食べてしまって・・・どうしましょうです。ちょっととぼけておかしい。この自然なおかしさが好きです。阪田さんの“サッちゃん”は、さち子ちゃんだからサッちゃん。このサッちゃんが引っ越していってしまう寂しさをうたったものです。最近は子ども番組を見なくなってしまいましたが、今でもきっとこれらの歌は子どもたちの間で歌われていると思います。まどさんと阪田さんの詩はとても易しい言葉で書かれており、子どもが喜んで歌うのだけれど、言外に深い意味があるという、とにかく魅力的なものばかりです。大人の場合、歌っていると、思わず顔がほころぶと同時に生きていることの喜びが湧いてくる。気分がよくなります。これは、生命誌と共通するというのが私の実感で、私には、まどさんと阪田さんの存在そのものが生命誌なのです。これは私の方からのラブ・コールですが、この実感が間違っていないと思うのは、お二人とも生命誌にとても関心を持ち、共通するものを感じとって下さっているからです。今回、送って下さった著書にも思いがけずそれがあって嬉しくなりました。少々長くなりましたので何があったかについては次回に。


【中村桂子】


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