中村桂子のちょっと一言
館長の中村桂子が、その時思うことを書き込むページです。月二回のペースで、1998年5月から更新を続けています。
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2003.4.15 

【想像力を! アメリカの少女に学ぶ】
 
中村桂子館長
 4月15日用の原稿,3月23日に書いています.3週間のズレはとくにこの時期ですと季節感がかなり違いますし,とても書きにくいのですが,手続き上しかたがありません.東京と大阪という私の生活圏では今は桜はまだですが4月15日は終わっているかもしれませんね.それ以上にどうなっているかわからないのがイラクでの戦争です.理屈はどうであれ,とにかく一刻も早く終わって欲しいと願います.
 国際情勢の分析,各国の思惑の解読など山のような情報の中で,最も強く心に響いたのは,米国メイン州の13才の少女シャーロット・アルデブロンさんのメッセージです.インターネットで世界中を巡っているということなので,お読みの方も多いと思いますが,みごとなメッセージという他ありませんね.
「イラクの爆撃を考える時思い浮かべなければならないのは,フセインでも兵士でもありません.イラクの人口2400万のうち半分以上が15才以下の子どもなのです.皆さんがイラク爆撃をする時思い浮かべなければいけないのは私の姿です.皆さんが殺そうとしているのはこの私なんですよ」と始まるメッセージは,インターネットなどで調べたという湾岸戦争の時の子どもたちの被害を具体的に述べます.とくに,3才の時に父を失ったアリが、三年間毎日父の墓に向って「父さんもういいんだよ.出ておいで.父さんをそこに閉じこめた奴らはもういなくなったから」と叫び続けたという話は強烈です.
 彼女は最後にこう呼びかけます.「小学校の時,問題が起きたら叩いたりののしったりせずに話し合い,“I”メッセージで解決しなさいと教えてくれましたね.“I”メッセージは,相手にその行為がどれだけ自分にいやな思いをさせているかを伝え,相手が自分を思いやり,その行為を止めるようにさせるというものです.これを思いだして下さい.今回は“I”よりも“We”メッセージと言った方がよいかもしれません.自分たちでは何もきめられないのに結果には苦しめられなければならない世界中の子どもたち“We”からのメッセージです.ひどい事態になるのをただ待つしかないイラクの子どもたち“We”からのメッセージです.・・・」
 これを読んでシャーロットさんの理路整然としていながら心からの言葉を伝える力に感心しましたが同時に,ここで紹介された小学校教育がいいなと思いました.今,日本では教育基本法を改正しようとしています.社会を構成する人々にどこか筋が通っておらず,自分勝手になっているのをなんとかしたいということが点が一つの論点です.そこで出てきているのが「国を愛する心」なのですが,ここで,この国がどんな国であるかはっきりしていないのが気になっています.
 “I”メッセージは,「私」を強く出しているように見えますが,求めているのは想像力です.相手の立場を想像して行動する人になる.その時,言わなくてもわかって下さいというのが日本風ですが,そうではなくはっきり「私」を出そうというわけです.個を尊重するとはこういうことなのだとわかりました.私を主張し,何でもありにするのではなく,個を出すことによって相手の想像力を引き出すことだと.それは,もちろん自分も想像力をもつ人にならなければならないということです.今のアメリカの行動は想像力に欠けているとしか言えないので,教育が成功していないのかもしれませんが.「想像力」は人間のもつ最も大きな能力です.「創造力」の源泉でもあり,人と人との間に優しさを産むもとでもありますから.

(シャーロットさんの原文は,www.antiwar.com/ で読めます)



【中村桂子】


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