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中村桂子のちょっと一言

館長の中村桂子が、その時思うことを書き込むページです。月二回のペースで、1998年5月から更新を続けています。

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【ゲノムに書いてあること】

2002.8.15 

中村桂子館長
 「ゲノムに書いてあること」って何だろうとまず考えてみます。たとえば、ヒトゲノムの解析が進み、そこにある遺伝子数は31,000ほどらしいとわかった。これはゲノムから読みとれることの一つです。これがわかった時、欧米のジャーナルは一様に、衝撃を受けたと書きました。なぜなら、この数が予想よりあまりにも少なかったからです。
 予想の一つはすでに明らかにされた他の生物の遺伝子数をもとにして、なんとなく考えられていたことです。大腸菌などのバクテリア4,000、酵母菌6,000、ショウジョウバエ13,500、線虫18,500、シロイヌナズナ28,000。この先にヒトを置くとすれば・・・・・研究者仲間ではなんとなく70,000〜100,000という数が語られていました。この数が出された根拠の一つは、タンパク質の種類です。ヒトの細胞には、100,000種に近いタンパク質がある・・・・・とするとタンパク質を作る遺伝子もそれに匹敵する数あるに違いないというわけです。ところが実際にあったのは31,000ほど。私など、あらそう、という程度ですむのですが、どうも欧米の人は、この偉い人間様が線虫如きと大して違わないのはけしからんと思うようです。「天才アインシュタインに必要な遺伝子数がハエより1万7千ほど多いだけとは・・・・・」とアインシュタインを持ち出して嘆いています。しかしなかには「別にこれで自分がたいしたことがないとは思いません。ショウジョウバエだって結構複雑ですし、2枚の羽でとんでるんです。私にはそんなことできませんからね」となかなかわかっているなと思うコメントもありました。
 まあいいじゃありませんか。ただここから更に、31,000の遺伝子はどんな風にはたらいているのだろうという次の読み解きをしなければならないことは確かです。100,000個あるとわかるよりは更に面白そうな謎が出てきたわけで、ゲノムへの興味は続きます。


【中村桂子】


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