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中村桂子のちょっと一言

館長の中村桂子が、その時思うことを書き込むページです。月二回のペースで、1998年5月から更新を続けています。

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【進化と生命誌】

1999.12.15

 進化とはなにか。この問いへの答は、これからの研究からだんだんに出てくるでしょう。今年、日本進化学会という学会が設立されましたので、そこでの研究発表や議論が楽しみです。因みに、この学会の初代会長は、我が研究館でオサムシ研究のリーダーとして活躍して下さった大澤省三顧問です。10月に設立記念のシンポジウム「生物多様性」が開かれましたが、そこへの参加者と研究課題を見るととても興味深いものがあります。動物、植物、微生物を問わず対象は何でもあり、分子も形も、実験室での研究もフィールド研究もと全方位からの攻撃です。本来生物研究はこういうものであるはずだったのに皆分れていました。進化はこのように皆をつなぐ、生物にとって本質的な課題だということでしょう。我田引水するなら生命誌はこれを核に、更に人文、社会科学や日常生活にまで広げている分野です。恐らく、学問全体がこの方向へ動くだろうと信じて、私たちの活動を進めて行こうと思います。いろいろなお考えをどうぞお聞かせ下さい。



※いただいたメッセージに一言※
 姫路工大の由佐さんから私と話をしたいというお申し出がありました。研究館では、実験室をご案内した後、館長、副館長が皆さまとお話する「実験室見学ツアー」を行っています(スケジュールは生命誌研究館のホームページにあります。イベントスケジュールのページ)。そこへいらして下されば必ずお話ができると思います。由佐さんのようなお申し出が多くなれば、そういう機会を作ることも考えます。この欄も皆さまからの御意見を受けて、書いていきたいと思いますので、是非いろいろお送り下さい。

※「ちょっと一言」お答え番※
 (その1)
 熊本の八代市立第一中学校の小山君から「三十五億年の命」(国語の教科書中学三年に私が書いているものです)を読んで質問が来ました。質問が出るだけ興味をもって読んでくれたのだなと嬉しくなりました。以前、この文の冒頭の「人間もゴキブリも同じ」というところに抗議して「僕はゴキブリと同じじゃない」と手紙をくれた男子のことを思い出しました。何回か手紙をやりとりして、「同じ」という意味をわかってもらったのですが、時代は変わってe-メールになったのですね。
 質問は文中に「人間は60兆個もの細胞からなる」とあるが誰がどうやって数えたのかというものです。そうですね。誰でもそう思いますね。これは、数えたのではありません。こんな風に考えたのです。細胞1個の大きさはわかっています。そこからおよその重さを出し、これが集まった時、どのくらいの重さになるかを考えました。すると、10億個で1gになりました。つまり1兆個で1kg。大人はまあ60kgくらい、そこで60兆個というわけです。赤ちゃんなら3兆個でしょうか。君の体重は何キロですか。

 (その2)
 生命倫理の研究者になろうと大学院への進学を考えているのだけれど、アドバイスをしてくれないかというメールです。
 きちんと答えるととても長くなる話を短く短くまとめますので誤解を招くといけないのですが、一言で言えば生命倫理(とくに日本の生命倫理)での議論の内容や方法が私にはまったく合わなかったので、科学と人間や社会の問題を考えるには別の道が必要と思い、十年ほど考えた結果、「生命誌研究館」にたどりついたのです。「生命誌」という生命について総合的に考える知とそれを誰もが共有する場である「研究館」の組合せです。今私は、生命誌から出てくる生命観・自然観・人間観で社会を考えて行こうと思っています。その方が、生産的で明るい答になると思うからです。生きものを知るのが面白く、人間を信じているので、この方向になりました。最近、アメリカで出版されたものを訳して「クローン、是か非か」(産業図書)という題で出しました。アメリカはこんな風にやっているということに興味があったので。いろいろ考えさせられました。このように脇からは見ていますが、生命倫理については御専門の方に相談して下さい。お役に立たずゴメンナサイ。

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