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中村桂子のちょっと一言

館長の中村桂子が、その時思うことを書き込むページです。月二回のペースで、1998年5月から更新を続けています。

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【久しぶりに持った誇らしい気持】

1998.10.1 

 生命誌研究館ではホームページを持ち、是非皆さまに見ていただきたいと言いながら、私自身は滅多にインターネットに入りこむことはありません。しかし、今回はすぐに入りこみ、打ち出しをして一気に読みました。皇后さまの、国際児童図書評議会での講演の原稿です。
 素晴しい。心が揺さぶられる思いがしました。内容は深く表現も本当に素晴しく、このような方が皇后さまでいらっしゃる日本という国の一員であることに感謝し、また誇らしい気持ちになりました。「子供の本を通しての平和」というテーマで、御自身の子供時代の読書体験から生まれたお考えをきれいな日本語でお話しになりました。全文を読んでいただきたいのですが、ここでずっとテーマにしてきた「開く」と深く関わり合う部分を二ヵ所御紹介します。
 まず、「生まれて以来、人は自分と周囲との間に、一つ一つ橋をかけ、人とも、物ともつながりを深め、それを自分の世界として生きています。この橋がかからなかったり、かけても橋としての機能を果たさなかったり、時として橋をかける意志を失った時、人は孤立し、平和を失います。この橋は外に向かうだけでなく、内にも向かい、自分と自分自身との間にも絶えずかけ続けられ、本当の自分を発見し、自己の確立をうながしていくように思います。」
 もう一つは、「2、30年程前から、『国際化』、『地球化』という言葉をよく聞くようになりました。しかしこうしたことは、ごく初歩的な形で、もう何十年――もしかしたら100年以上も前から――子供の世界では本を通じ、ゆるやかに始まっていたといえないでしょうか。1996年の『子供の本の日』のためにIBBY(国際児童図書評議会)が作ったポスターには、世界の家々を象徴する沢山の屋根を見おろす上空に、ぷっかりと浮かんで、楽しげに本を読んでいる一人の少年が描かれていました。遠く離れた世界のあちこちの国で、子供達はもう何年も何年も前から、同じ物語を共有し、同じ物語の主人公に親しんで来たのです。」
 私たち人間が、どれだけ開く可能性を持っているか。でもうっかりすると閉じたままになる危険性をもっているか。改めて考えました。

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